3Dプリンタの積層痕とデザインのおはなし
こんにちは、三田地です。https://mitachihiroshi.com
今回は
「家庭用FDM3Dプリンタの積層痕と表面造形処理(テクスチャ)」
について書こうと思います。
ちょっとニッチなテーマですが、デザイナー目線から3Dプリンタを使った造形について気づいたことを書いていこうと思います。
FDM3Dプリンタ(以下3Dプリンタ)を使用すると、必ず目にするのが"積層痕”。
原理上避けることができない3Dプリンタならではの特徴でもあります。
積層の厚みを細かく設定することで、目立たなくすることはできるものの、
その分造形時間がかかります。積層厚みを半分にすれば造形時間は2倍になるわけです。
3Dプリンタに関心を持った多くの人が最初に失望するのがここではないかと思います。
もちろん積層痕を埋めるなり削るなりして力技できれいに仕上げる方法はありますが、
それはそれでかなり骨の折れる作業です、、。
ここでちょっと発想を転換してみたいのです。
「金型によって大量生産された成型品をプラスチックのあるべき姿"ゴールイメージ"として捉えるから、3Dプリンタによる造形が低品質に見える」
こういう仮説を立ててみたいわけです。
素材は同じ樹脂を使うわけですが、そもそも金型による成型と
3Dプリンタによる造形では全く原理が違うわけです。
金型による成形は"面"に樹脂を圧力で押し付けて複製する造形です。
一方3Dプリンタは"線"を積み重ねる造形です。
線の積み重ねによる面の造形は高い精度を必要とし、とてもデリケートです。
一本でもエラーがあると人間は敏感にその乱れを察知してしまいます。
つまり3Dプリンタの造形原理が、面を表現するのにあまり向いていないのです。
それができるのは精度よく整備された優秀な3Dプリンタだけですし、
どれだけ精度がよくても積層痕からは逃れられないでしょう。
金型による成型品の劣化版・試作品の域を出ることはできません。
であれば、3Dプリンタの原理や特徴を活かした、
3Dプリンタが得意とする造形とは如何なるものかが気になるわけです。
3Dプリンタの造形原理は”テキスタイル"に近いのではないかと考えています。
テキスタイルは線(糸)を規則正しく織ることで、面を作り、模様を浮かび上がらせます。
3Dプリンタも線状に押し出した樹脂をデジタル制御して積み重ねていくわけです。
3Dプリンタの造形物を観察すると表面の質感や光の反射の具合はテキスタイルのそれに近いように見えます。
( 触ったかんじ畳に似ていると感じるのは私だけでしょうか、、、。一方向にのみ指の滑りがいい感じとか)
現在二つの方法を実験中です。
①積層痕とは別次元のスケールのテクスチャを入れ、積層痕を目立たなくする
②積層痕自体にパターンを入れ、積層痕自体をテクスチャ化する
①の方法は具体的にはグラスホッパーを使って、モーフィングすることで、
特定の形状をパターンとして表面に配置しました。 どんな形状をモーフィングするかで、様々バリエーションを作れますし、ハイライトの入り方、光の返し方が特徴的で、繊維感があります。パッと見た感じ、パターンの方に目が行くので積層痕は目立ちにくくなったのではないかと思います。(トップ画像のドライバーもこの方法でデザインしています)
②の方法は、積層厚みと同じピッチで3Dモデルデータを作ることで、一層一層のパスをコントロールができるようにしました。スライサーのアルゴリズムをいじって自動でテクスチャを生成するということも可能かもしれませんが、今は泥臭く手作業でやってます。(右:モデリングのイメージ 左:出力物)
かなりテキスタイルに近い表現になりました。今は0.4mmのノズルを使ってますが、敢えて大口径のノズルを使うことで、線の存在感が際立ってより面白くなるかもしれません。
まだまだこれからも研究を続けていこうと思っていますが、
2つの方法とも成型品にはできない表現の可能性を持っていますし、
表面にテクスチャを入れようが入れまいが、造形時間(コスト)にはほぼ影響がない
ところがおもしろい点です。
むしろ積層痕をよりポジティブに捉えることができるので、必要以上に積層厚みを小さくする必要がなく、造形時間の短縮にもつながるかもしれません。
いわゆるモダニズム以降、製造技術と機能の制約の中で美しさの最適解を求め、"良いデザイン"とは如何なるものかをみんなで定義づけしてきたわけですが、3Dプリンタの登場は今まで前提としていた制約を大きく変える可能性をもっています。必ずしもシンプルで最小限の形が最適解とは限らなくなるわけです。3Dプリンタの普及が進み、DDMなどが進んでいくと、試行錯誤の中で新しい最適解、"良いデザイン"の定義が更新されていくのではないかと考えています。
今回は具体的方法の部分にはあまり触れることはできなかったので、
次回以降はよりテクニカルな記事にできればと思います。